2016/9/29 公開研究会<第3回> 多文化共生社会にむけた取り組み

「(仮称)とよなか大学院」開設にむけた公開研究会<第3回>

テーマ:多文化共生社会にむけた取り組み
講 師:山本房代さん/(公財)とよなか国際交流協会
日 時:2016年9月29日(木) 19:00~20:30
場 所:とよなか国際交流センター

 1、山本さんからの話題提供

とよなか国際交流協会で働く山本さん。まずは自己紹介を通して現在の職場に関わるようになったきっかけを話してもらいました。

○ありのままの自分を受け入れてもらえる経験がターニングポイントに

山本さんは京都府宇治市生まれ。授業崩壊があったり、色んな生い立ちや職業の人々が住んでいる地域でした。育った家庭はあまり対話がなく、何かに対して誠実であることはあまりいいこととはされない、真剣にやっても評価されない環境だったような気がします。いじめる側、いじめられる側、どちらの立場になったこともありますが、その時々で周りの人に助けられてきました。

人生のターニングポイントは大学院に進学してから。初めて自分の話を聞いてくれる同世代に出会えたことにあります。人にお願いしたり、人を信頼することが成り立っていた文化に触れたり、他人の痛みに寄り添える人や共感する力のある人に出会えた人出会えたことで、こんな優しい人がいるんだと思いました。また、留学先のフィンランドで「外国人の私」「取り繕った私」でなく、ありのままの自分でも受け入れてもらえたことが大きかったです。これらの経験が今の仕事や考え方のベースになっています。

○とよなか国際交流協会の取り組み

同協会には全27の事業があり、次の3つの大きな柱に基づいて実行されています。

  1. 1多様な人が尊重される地域づくり
  2. 周縁化される外国人のための総合的なしくみづくり
  3. 学校とつながってつくる豊かな未来

特に大切にしているのが「周縁化される外国人のための総合的なしくみづくり」。地域に住む外国にルーツを持つ人たちが、本来持っている力を取り戻すため、また安心して地域で生活できるためにこの事業があります。また、ポイントとなる事業として、「日本語交流活動事業」「多言語相談サービス事業」「子どもサポート事業」などがあります。

○外国人の人々が抱える壁

外国の方々が抱える三つの壁として「言葉」「法」「心」があると言われており、それは今も続いています。
例えば「日本語学習事業」でアンケートを取ると、教室で学んだ日本語を一番使うのは「日本語教室」という解答が一番多かったということがありました。社会の中で異質なもの、違うものへ対する公然とした差別意識はまだまだあります。
壁は当事者が日々実感することです。「壁を作らない」という言葉はありますが、それを話し合える社会が必要だと考えています。

○一緒に考える人がたくさんいる地域に

梅田でヘイトスピーチをしている場面に遭遇して悲しく感じました。一方で、こういうことをする人たちはどういう人たちだろうかと考えました。彼らも満たされていないのではないか、その人の生きづらさが、この行動を招いているのではないかと思います。異質なものへの排除は、外国人だけでなく、セクシャルマイノリティ、障害者など違いを認められないところから起こっているのかもしれません。
イエスかノーか、すぐにはっきりとした答えが出ないことはたくさんあります。そのとき「一緒に考えるよ」「できることをする」「あなたの存在を受け入れたい」と考える人が地域にたくさんいたらいいなあと思っています。

○みんなで考えるワーク「ちがいのちがい」

以上のような話題を踏まえて、「ちがいのちがい」のワークを行いました。取り上げたテーマは次の4つ。

  • 日本の女性が生涯に産む子どもの数は、27人だが、ニジェールでは7.5人だ。
  • 日本では食事の時に箸を使うが、ネパールでは手を使う。
  • 日本には死刑制度があるが、フランスにはない。
  • ネパールのハイスクール(10年制)を卒業し2年働いて来日した18歳のスシルさんは高校編入が出来ず12年の基礎教育を終えて いないため日本の大学受験もできない。一方、アメリカのハイスクール(12年制)を卒業した18歳のジェフさんは、日本の大学を受験できる。

まずは自分で考えた後に、参加者同士で意見交換を行いました。
山本さんからは、「一言で多文化共生や、外国にルーツを持つ人の仕事といっても色々あって、多様な見方があります。簡単には答えが出ないひとつひとつの問題を多くの人たちと共に考えながら活動していきたいと思います」とのコメントがありました。

○寄られた意見

「こういう人と仕事できたらいいと思う人は?」との質問に、山本さんからは「話を聴いてくれる人。一緒に活動していても、自分の都合のいいように話を曲げない人。受け入れてくれる人」などの答えがありました。
参加者からは次のような感想やコメントが寄せられました。

  • 多文化共生というときに、三つの壁で「心」の壁が一番大きいと感じた。心の壁があるからこそ、法を変えようとする仕組みがないのではないか。
  • 多文化共生は深く考えていきたいと感じた。実際に暮らしながら困難を感じている人がいる、それを私たちが知らないことも、問題かもしれない。
  • 苦情を受けるとき、心を真っ白にして聞くことを心掛けてきた。「あなたの考えはこうなんですね」と聞き続けるとその人のことも見えてくる。多文化共生という言葉が、使われなくなるような社会になったらと思う。
  • 事業で「周縁化される外国人」ということを柱にしていることがすごいと思った。そういう意識付けが必要だと感じた。

 

2、「(仮称)とよなか大学院」カリキュラムについて

まず始めに、前回までの研究会で出された意見を踏まえて修正した点を事務局から説明しました。主な修正点は次の通り。

  • 「基礎編」「企画編」「実習編」からなっている第1フェーズ(全13回)は、通しで参加していただける方を対象とすることにしました。
  • 受講希望者と講座内容とのミスマッチを防ぐために開講前に説明会を実施することにしました。
  • 開講日はすべて土曜日午後とします。また、講座とは別に平日夜に学習会を実施し、仕事等の都合で週末に参加できない方はこちらの会にご案内します。

また山本さんの話題提供を受けて、「(仮称)とよなか大学院」の要素として「他者を受け入れること」「聴くという姿勢」などが必要なのではないかとのご指摘があり、「傾聴プログラム」を何らかの形でカリキュラムに取り入れることを確認しました。