2017/6/10 第3回(基礎編②) 音楽創作ワークショップ

第3回(基礎編②) 音楽創作ワークショップ

テーマ:音楽創作ワークショップ
講 師:野村誠さん(日本センチュリー交響楽団コミュニティプログラムディレクター、作曲家/ピアニスト)
    近藤孝司さん(日本センチュリー交響楽団首席トロンボーン奏者)
    柿塚拓真さん(日本センチュリー交響楽団マネージャー)
日 時:2017年6月10日(土)14:00〜17:00
場 所:とよなか起業・チャレンジセンター

 

6月10日(土)、とよなか起業・チャレンジセンターにて第3回とよなか地域創生塾(以下、「創生塾」という。)を開催しました。前半は映像などを通して野村さんや柿塚さんのお話を伺い、後半は実際に楽器を手に取りながら音楽づくりを行いました。当日は、塾生も講師の方々も皆円形に並べられた椅子に座り、お互いの顔を見渡しながらのワークとなりました。

◯自己紹介

はじめに、前回(5月27日)の振り返りを行い、みんなで作成したルールの確認を行いました。

その後、野村誠さん(日本センチュリー交響楽団コミュニティプログラムディレクター、作曲家/ピアニスト)のファシリテートのもとで、簡単な自己紹介を行いました。この時点では、まだ誰も野村さんのワークがどのようなものなのか知りません。今回は「音楽をつくる」ワークショップということで、音楽経験のある塾生たちからは「とても楽しみ」という声が聞かれました。一方、これまで音楽や楽器に触れてこなかった塾生にとっては、少し不安だという声も聞かれました。

◯野村誠×ワークショップ

次に、これまでの野村さんの活動について、映像を交えながら見ていきます。

子供の頃は力士か音楽家のどちらかになりたかったという野村さんは、埼玉県で昨年開催されたさいたまトリエンナーレで、「相撲」を取り入れた音楽ワークショップを行いました。事前に岩槻という町についてリサーチして町のイメージをつかんだ上で、当日は相撲の呼び出しが演奏する太鼓を鳴らしながら埼玉県の岩槻を練り歩き、地域に触れながら様々なパフォーマンスを行なったそうです。また、淡路島では特産の瓦を使った「瓦の音楽」づくりのプロジェクトを監修し、衰退する伝統産業と文化の継承などにも関わっています。

その後は、野村さんとセンチュリー交響楽団との出会いについても紹介されました。そもそもの始まりは、今回の講師の一人でもある柿塚拓真さん(日本センチュリー交響楽団マネージャー)が、「オーケストラで、何か新しいことを始めたい!」という思いを持って野村さんのもとを訪ねた4年前に遡ります。野村さんが3年前からセンチュリー交響楽団のコミュニティプログラムのディレクターを務め、様々なワークショップが行われるようになりました。そのほとんどのワークショップに参加しているのが、同じく今回講師としてお招きした近藤孝司さん(日本センチュリー交響楽団首席トロンボーン奏者)です。

◯野村誠×センチュリー交響楽団

柿塚さんが野村さんと一緒に行っているコミュニティプログラムは、一般的な「オーケストラ」のイメージとは大きく異なります。柿塚さんがコミュニティプログラムを通して目ざすのは、一般の人たちと一緒にオリジナルの音楽をつくってみたり、一般の人たちが色々な楽器を実際に弾いてみたりして、お互いに何か学びや気づきを得られるようなオーケストラの姿です。そして、従来の型にはまらない地域との色々な関わりあいを大事にしながら、神社やお寺、商店街と同じように、町の中にある地域資源の一つとしてオーケストラが位置付けられていくことを目ざしています。

こうした中で現在、コミュニティプログラムでは主に二つのプロジェクトが動いています。一つ目が、若者の就労支援を行う大阪市内のNPOと組んで、そこに通う若者たちと共に音楽をつくる「The Work」という音楽創作プログラム。二つ目が、豊中市庄内で開催される「世界のしょうない音楽祭」です。

市民とオーケストラが一緒になって音楽をつくる「世界のしょうない音楽祭」では、大阪音大が所蔵する邦楽の楽器や様々な民族楽器を使います。楽器の経験・未経験を問わず、プロの演奏者とオーケストラを組んでワークショップを行い、最後にはその集大成として一般公開の発表会を行います。タイトルにある「世界の」という言葉には、「庄内は世界的な音楽祭のまちなんだ」という思いと、「世界の色々な音楽が地域や文化を飛び超えて一緒くたになっている」という二つの思いが込められています。実際に発表会の様子を見ると、ほとんどの人が担当する楽器を触れたこともない状態から始めたというのに、最後には迫力のある素晴らしい演奏になっているのは、すごいとしか言いようがありません。

◯全てが音楽になる音楽創作ワーク

野村さんやセンチュリー交響楽団の活動を一通り見たところで、いよいよ音楽創作ワークが始まります。

まず、野村さんが試しに手拍子をとり、同じ動きを全員で行います。その後は一人一人、順番に違った動きで音楽を作り、やはり全員で同じ動きをしてみます。「みんなができそうな動きで、何か音楽を作ってください」という野村さんからのいきなりの振りに、はじめは塾生の皆さんも困惑をかくせませんでした。しかし、「うーん困ったな」という塾生に対しては、「その「うーん」をちょっとみんなでやってみますか」と言ってみんなで声に出してみたりしていると、全員の動きがもれなく音楽になっていきます。また一人ひとり順々に新しい音と動きを出していく中で、途中からはその出てきた動きを繰り返したり、違う動きを付け足したり、使う体の部位を変えたり、様々なアレンジを加えていきながら、最後には一曲の「音楽」が完成してしまいました。

◯「ざわざわ族の襲来」

10分間の休憩を挟み、ここからは実際に楽器を手にとって音楽づくりを行ないます。

会場中央に大量の楽器が並べられ、塾生の皆さんはその中から一人一つ、好きなものを手にとって音を鳴らしてみます。楽器の音色は本当に様々で、中には見たこともないような楽器があったりして、会場の雰囲気がどんどん混沌としたものになっていきます。

ここでまず、適当に座った状態のまま、一人一音ずつ順番に鳴らして、それぞれの楽器の音を聞いてみます。当然ながら、色々な音がランダムに鳴っていくので、全体としてだいぶ凹凸のあるように聞こえます。そして次は、チャイムを持っている人はチャイムを持っている人、打楽器の人は打楽器の人、という感じで似たような楽器で固まって座ってみます。すると、ずいぶん音にまとまりが出て、不思議とそれらしい音楽に聞こえてきます。思わず「おー」と塾生たちからも声が上がりました。名付けて「ざわざわ族の襲来」の音楽の完成です。

◯オリジナルの歌作り

ここからはオリジナルの歌作りです。「じゃあ時間も少ないですし、歌でも作りますか」という野村さんの言葉に、思わず「そんな簡単に歌なんて作れるんだろうか」と驚かされます。

ひとまず、歌詞づくりのため、「『豊中』でイメージする単語」を順番に聞いていきます。たくさんの言葉がどんどん挙げられていく中で、うまく組み合わせられそうな言葉をいくつか選び、歌詞となる文章をつくっていきます。そして完成した歌詞は以下の通り。

176(いなろく)夢(ドリーム)
高校野球といえば履正社
ゆったり北摂マダムは 千里中央でパンを買う
ピーコックのコーヒーを飲みながら 飛行機を見る

歌詞が決まり、ここからどのように音楽をつくっていくのかというと、まずドレミファソラシドの中から、それぞれ歌詞に対応する音を一つずつ選んでいきます。そのあとに、その音が歌詞のどこまで掛かっていくのかを決めていきます。例えば今回、最初の人が「いなろくドリーム」という歌詞の最初の音を「レ」にしたので、次の人はその音が歌詞のどこまで掛かっていくのかを決めます。実際には「いなろく」の「く」のところまでをレの音にし、次の人は「ドリーム」のところの音を「ソ」にしました。さらに次の人は、そのソの音が残りの歌詞の「ドリーム」のどこまで掛かっていくのかを決めていきます。また、ドレミの音がわからない塾生には、野村さんが実際に電子ピアノで音を出して、とりあえず直感でその前の音よりも高いか低いか、またどれくらい高いか低いか、といったことを聞いて、あっという間に歌詞に音程がついていきます。そして気づけば一曲の歌が完成し、最後にその歌を野村さんの伴奏とともにみんなで歌い、今日の音楽創作ワークが幕を閉じました。

◯ふりかえり

 最後は、今日の振り返りを皆で行い、一人一言ずつ感想を述べていきます。

「これまで馴染みのなかったオーケストラという存在が身近に感じられたし、これから何か一緒にできることもあるかもしれない」「音楽が人と人とをつないでいくことを実感することができた」
「共同作業の面白さや素晴らしさを学べた」
「音楽が苦手だったが、みんなでやると楽しく、素晴らしいものができた」
「一つ一つは単純な音でも、それが色々な人と重なることでアートとなることの面白さを知った」
「音楽経験の有無に関係なく、みんな何が起こるかわからない状態から始まり、楽しむことができた」
「すでに用意されたワークをやるのではなく、みんなでゼロからやることで思いがけない方向に発展していくことに面白さを感じた」
といった、様々な感想が共有されました。

今回、はじまりから「じゃあ何をしましょうか」「何をやりたいですか」と言う野村さんの姿に、戸惑いを覚えた塾生の方も多かったようです。しかし、だからこそ、その場の雰囲気や偶然で音楽ができていくことや、誰かと協働することで生まれる面白さと可能性を感じることができたのかもしれません。多くの塾生の方から、事前に思い描いた「音楽創作ワークショップ」のイメージとは異なり、野村さんのワークでは予想外に楽しむことができたという声を聞くことができました。

柿塚さんからは「最初はまとまりのなかった音でも、席順を変えて演奏してみたりすると結果的に面白いものに変化していきます。こうした思いつきや直感、人の持っているアイディアなどに耳を傾けて、面白がったり工夫をしたり、人やもののポテンシャルを発揮させるのが得意な人が作曲家です。作曲家が音楽に対して持つ視点、つまり日常に埋もれてしまっている事柄をつなげたり掘り起こしたりする能力というのは、きっとまちづくりなどにも共通していて、地域の力を発揮するためにとても大事な視点になってくるはずです」とのコメントがありました。

“音楽創作”という地域での活動と関係がないと思えるようなワークショップから、まちづくりにとって必要な視点や発想を学ぶことができた回でした。

 

◆今回のワークショップでつくった曲◆ ※音声を聴くことができます。
 ○オリジナルバージョン          

 ○野村誠さんによるアレンジバージョン 

 

(譜面)