第11回(実習編①) 地域の拠点をつくる1 リノベーション計画
講師:植地惇さん(関西大学 佐治スタジオ室長)
まちのご案内:上芝英司さん(喫茶ピーコック)
日時:2017年10月14日(土) 14:00~17:00
会場:中豊島コミュニティプラザ
Ⅰ.服部天神駅周辺 フィールドワーク(まちあるき)
前半は阪急宝塚線 服部天神駅周辺のフィールドワーク-まちあるきを行いました。
○まちあるきのポイント
まず、植地惇さん(関西大学 佐治スタジオ室長)から、フィールドワークのポイントについてお話がありました。
空き家を見つけるにあたって…
- そのまちのなりたちや脈絡を知る
- 音や風の流れ、雰囲気などさまざまな様子を知る。
- 自分が企画したいことややりたいこととどうマッチするかを考えながら歩く。
○まちあるき
とよなか地域創生塾塾生で、服部天神駅のすぐそばで喫茶ピーコックを営まれている上芝英司さんのご案内で、まちあるきを行いました。
◇歩いたルートから
①服部天神駅前
-服部天神駅の利用者の多さは最寄駅とする範囲の広さが背景にある。守備範囲が広過ぎる。
-大規模な開発が行われておらず、区画や道路は半世紀近く変わっていない。
-踏切内の点字ブロックは全国初の試み。歩行者が多いこととバリアフリー重点地区になっているため。
-筋を1本入ると文化住宅なども残る住宅街。
-市営駐車場は服部唯一の広場。
②商店街
-信号も歩道もない(白線も引かれていない)西町商店街。危険に見えるが事故はほとんど起きていない。
-一時はシャッター街となっていた服部阪急商店街。昔ながらの商店街の面影を残しつつ、アーケードを撤去した現在は順調に世代交代も進んでいる。地域高齢者交流カフェサロンがある。
-コンビニエンスストアが少ないことで、個人経営の店舗が維持されている。
③その他
-地盤の影響もあり、他より低い土地がある。水が溜まりやすい。
-さまざまな背景があり、服部~庄内にかけては阪急電車 宝塚線の高架化が進んでいない。しかし、高架化を進めることについてもよしあしがある。
④リノベーション物件
空き家を活用した活動拠点づくりとして、11月から実際にリノベーションを行っていく物件に立ち寄りました。建物1階の床を現状復帰できる手法で張り替えて、組み合わせて棚として使えるボックスを自作して設置するほか、中で行っていることが見えるように、道路に面したガラスも入れ替える計画です。
Ⅱ.講義「地域の拠点をつくる -空き家×○○×地域を考える」
後半は、植地惇さんからの講義でした。内容は次の通りです。
○8,200,000
「8,200,000」。これが全国にある空き家の数です。平成25年(2013年)調べですので、今はもっと増えているでしょう。「8,200,000の空き家」と聞けば、わるいイメージをいだきがちですが、むしろ「8,200,000の資源がある」と、このレクチャーをとおして感じてもらえればよいなと思っています。
○丹波での活動
「関西大学佐治スタジオ」は、大学と地域が協働して地域課題の解決に取り組んでいくことを目的に関西大学と兵庫県丹波市との協定により2007年に設立しました。今日は、空き家の再生を通じて「暮らし続けたいまち」「関わり続けたいまち」をつくる、ということで事例を紹介します。
○関わり続けるという定住のカタチ
11年前から続けている活動のテーマのひとつは「関わり続けるという定住のカタチ」です。関西大学から毎年、新しい学生がやってきます。まちに交流人口が増えることで、地域ににぎわいをもたらせることができます。関わり続ける中でしか見えてこないものがあり、長い時間をかけて「地域の再生」を考え続けています。
○21世紀の故郷づくり
次に「21世紀の故郷づくり」です。今の学生は、団地で暮らしてきたなどで、故郷を持たないという人もいます。そういった学生にとって、佐治に来ることで、故郷と思える場所ができています。豊かな山河に囲まれた美しい故郷を持つことができ、将来にわたり訪れ、帰ることのできる故郷のような場所になっていくのではないかと考えています。
○空き家を活用する魅力
まず、家として既に建っているものなので、すぐに始められる、ということがあります。必要な機材や物品を持ち込むことで、すぐに使えるようにできます。
それから、参加しやすい、ということがあげられます。改修についても建物があるので、床を張り替えるなど、学生や地域の人びとが参加しやすいですし、建物があることで、どのように活用していこうかを実物を見ながら考えていけることも魅力です。
新築にはない魅力が、古民家とその改修にはあると思います。
○空き家だけ解決できたらいいのか
空き家を取り巻く環境を見わたすと、休耕地、災害などの環境的な問題があることに気づかされます。地域を暮らしやすくするために、空き家だけを見るのではなく、地域を見て、空き家の再生活用を考えていかなくてはなりません。
その地域でどんなふうに暮らしていきたいのかが重要で、空き家はそれを実現するための手段です。空き家を取り巻く地域環境はさまざまで、それぞれ異なっています。地域の現状から地域の未来を考えていく、ということです。
丹波では、
・過疎化による集落維持機能の低下
・交流機会の減少
・放置された空き家、危険空き家の増加
といった課題があります。
いっぽうで、今回、わたしたちが活動する豊中市のような都市部では、
・活動する拠点、交流する「居場所」が少なくなってきている
という課題があるように思います。
丹波のような地方であれば、移住・定住対策として、空き家の活用を考えています。地域での暮らしを豊かにしていくための手段として、空き家活用の方法をデザインしていく必要があります。
豊中の地域特性としては、地域課題を解決する手段として、どのように空き家を使えるかということが重要になってくると思います。
そこで、今回と11月11日の講座で「空き家×○○×地域を考える」をテーマとして、「楽しく元気に暮らせる環境をつくる」ということに取り組んでいただきたいです。
塾生のみなさんはグループごとに企画を練っておられるとのことですので、みなさんが考えていることにプラスアルファして、このまちに必要なものは何か、このまちにどのようなものがあればもっと魅力的になるか、今日のようなフィールドワークなどをとおして、この「○○」にあてはまるものを考えてほしいと思います。
○地域を考えるヒント
-フィールドワークをする
どこに学校があるか、どういう人の流れがあるか。ひとつの時間だけでなく、夜はどのような様子か、酒場や教室、地域の掃除や老人会、子ども会などで、地域の人と話をする機会を生かす、日々すべてのこと、そこに暮らすということがフィールドワークになります。
空き家の活用を考える場は、地域のことを語り合う場となります。どういう人に使ってほしいか。場所を求めている人たちの居場所になるようにしています。
-持続的な組織づくりに向けて:佐治倶楽部を事例に
地元の人たちを中心に、空き家を活用・維持していこうという任意団体として、佐治倶楽部というものをつくっています。
わたしたちのスタンスは「無いものは自分たちで作ればいい」というものです。着付け教室や男性を対象とした生け花教室、子ども向けの茶道教室など、基本的に佐治倶楽部の人びとがやりたいということは、空き家や広場を活用することで、できるようにしています。
また、自習室を作るなど、高校生をはじめ若い世代が地元につながるような活動もしています。
改修や片付け作業には地域の人びとにも参加してもらって、空き家活用、居場所づくりに親近感をもっていただくようにしています。自分たちで使う場を自分たちで作るということはあまりないので、貴重な経験にもなっているかと思います。
地域×○○の事例紹介:改修事例と活用事例
「自分もよし、地域もよし、重ね合わせる、混ぜ合わせる、作り続ける感じ」
◇青垣町佐治/関西大学佐治スタジオの取り組み
地域には大学生の世代がポッカリ抜けていることが分かった。
→「空き家の改修」や「田舎に関わる」ということに大学生はすごく興味があることが分かった。
まず、地域の人びとの話を聴くところからはじめ、専門家と協働しながら学生が主体的に空き家の改修を行う。地域資源の活用など、考え、議論しながら、また、現場をオープンにし、地域の人が参加しやすい状況で作っていく。時間をかけて、たくさんの人を巻き込むことで、地域の人にとってかけがえのない場所を作る。「暮らし」の気配がまちへ…。
◇青垣町佐治/地元の高校生との取り組み
地元の子どもたちの地域への愛着が低いことが分かった。
→「若い人がいない」と大人は嘆くが、高校生や中学生が見えていないことが分かった。
氷上西高校×関西大学×住民で空き家を活用し、製麺機を再生して、佐治のソウルフードでもある土田うどんを復活させるプロジェクトを行った。
◇青垣町佐治/空き家活用サークル「佐治倶楽部」
歩いてみるとお花を育てている家が多いことに気がついた。
→佐治ゲリラガーデンマーケットの開催(改修工事をしない空き家リノベーションの例)
「知り合いのガーデナーと空き家を使って花屋ができたら楽しいやろなぁ」「佐治のまちの人はガーデニング好きな人多いで」「いろんな草花がまちに溢れたら歩きたくなるよな」
飲食が伴うと飲食業の許可や衛生面の課題があるが、物販であれば改修工事をしなくても空き家を使える。1回につき2,000円の使用料を家主に支払う。
◇青垣町佐治/キヌイチ&ホンイチ
地域にないものは潜在的なニーズに繋がっていることが分かった。
→衣川會舘(3年前に改修した古民家):地元の人びとのアイデアを募り、毎月第4日曜日に地元を楽しむイベント=キヌイチを開催している。青垣町にはないパン屋をこの日に開き、好評になっている。また「お試しコワーキング」として、會舘2階を仕事ができるスペースとして週1回開放することで、ウェブデザイナーやプログラマーといった人びとの移住も増えてきている。
本町の家(改修物件):青垣町に本屋がないということで、毎月第4日曜日にホンイチを開催し、気軽にゆっくりと本を読める場、ライブラリースペースをつくっている。
※その他、山口県萩市の交流スペース「田万川テラス」、大阪府河内長野市南花台でスーパーの空きテナントを地域みんなの拠点として地域住民と共に改修を行った「コノミヤテラス」の事例を紹介がされました。これらの事例で行われている、何をやっているか外から見えるようにすりガラスを透明のガラスにする、気軽に入ってこられるように通り土間を作る、木の床で「○○できる場」を作るといったことは、とよなか地域創生塾でのリノベーションにも生かされることになっています。
最後に
大事なのは、空き家を減らすことなのか? というよりも、地域で豊かに暮らすために空き家をどう活用するか、ということだと思います。
空き家にとらわれ過ぎずに、地域のことを考える時に、何かしらのカタチで、空き家を絡めて考えてみてはいかがでしょうか。
質疑応答
Q.関西大学の学生は、何人ほどが佐治に滞在しますか? 同じ学生が4年間関わるということですか?
A.学生は夏季休暇中に滞在することが多く、その時期に100人ほど、年間で延べ人数として200人ほどが滞在しています。佐治スタジオの授業として、滞在型講座ということで教授も来て2泊3日でフィールドワークを行なったり、ワークキャンプといって1週間滞在して丹波のなりわいを学ぶということもあります。わたしもそうでしたが、同じ学生が4年間関わっています。田舎が好きになる学生も1~2割はいて、10~20人くらいはその後もイベントや改修があると来てくれたりしています。
Q.その中で実際に青垣町に移住した人は?
A.実際に住むようになったのは、前任の出町さん、わたしと徐々にではありますけど、移住する人も出てきています。
Q.こういった活動に、行政、たとえば丹波市であれば兵庫県などはどの程度、関わっていますか?
A.佐治スタジオは2007年からですが、実際の活動は2006年からスタートしています。丹波市と建築学会が主催するコンペで受賞したことがきっかけでした。丹波市と関西大学が連携協定を結び、双方から同額程度の年間予算が出ています。大学が丹波市に入りこんで活動する前例がなかったので、その先進事例として今も大学と丹波市が協力的に活動しています。
Q.たとえば、取り組みの中でとりあげられていた土田うどんが商品化された、といったようなことにつながった事例はありますか?
A.商品化というのはなかなかむずかしいですが、青垣にはお土産がないということで、地元の定期市で丹波布を使ったお酒を入れる袋とお酒をセットにして販売するなどしています。青垣らしい、青垣の魅力を伝えられるようなものを作れたらなと思っています。
Q.佐治スタジオは何をめざしているんですか?
A.自分たちで空き家を管理して、地域の人たちがメインになって活動していくような基盤をつくりたいと思っています。そのために佐治倶楽部という任意団体があります。大学の予算で運営しているのは佐治スタジオだけで、それ以外は佐治倶楽部で予算繰りをして回しています。佐治スタジオとしてめざすところは、地域の人びとが活躍する場をつくっていくということがメインです。
Q.関西大学建築学科建築環境デザイン研究室としてのねらいは何でしょうか?
A.わたしたちの教授の姿勢として、基本的に学生にゆだねるということがあります。拠点(佐治スタジオ)をつくる、卒業しても帰ってこられるような故郷づくり、そしてゲストハウスをつくるということをこの取り組みの課題として掲げています。このうちゲストハウスはまだできていないので、滞在できる場所を作りたいなという話は出ます。それは建築的に解決すべき課題なのかなと思います。
Ⅲ.グループ作業
次に、植地さんの講義をとおして、この日のフィールドワーク-まちあるきから見えてきた まちの魅力や課題など、気づいたこと、感じたことを、グループに分かれて話し合い、自分たちのグループの企画にどう生かしていけるか、「空き家×○○×地域を考える」について考える作業を行いました。
最後に、各グループから、今日の感想なども含めたワークの内容を発表しました。